MY(まい)様のSS「怪盗奮闘記 -序章-」
《怪盗奮闘記 ---序章---》 《プロローグ》 ここはとある工事現場、そこに真面目に働いている一人の作業員がいた。 『オーライ、オーライ、よ〜し、そこでストップしろ!!』 『で、これをどうするんですかい?』 『そうだな、近くの資材置き場に置いておきゃあいい、それで今日の仕事は終わりだ。』 『う〜っす、了解』 見た目はどこにでもいる普通の男だった。 だが、この男にはもう一つ、別の顔があったのである。 なんとこの男、巷を騒がす怪盗一味【ラングロード】のリーダーなのである。 ではなんで怪盗ともあろう御方がこんな所で働いているのかって? ま、それは追々説明していくとしましょう。 男の名はジンク。 このお話はそんなジンクを中心とした怪盗一味の話である。 『よ〜し、今日もみんな一日ご苦労だったな、じゃ、いつものアレやるぞ』 『あ〜にきぃ、毎日やってて飽きませんかい?』 『うるせぇ、てめぇは少し黙ってろ!』 『へ、へぇ、すいません…』 『少しはシェリフの奴を見習ったらどうなんだ?』 ジンクはちらっとシェリフのほうを見てそう言った。 シェリフは無表情のまま、 『ふっ、リーダーがああいってるんだ、少しは話の流れに乗ってやれ、ラードリー』 『ちぇ、シェリフはいつも兄貴の肩を持つんだから…』 もはや2対1の立場になったラードリーにはぼやくことしかできなかった。 『よし、じゃ気を取り直して…』 『うぃ〜っす』 『怪盗における絶対の掟、狙った獲物は必ずこの手に頂戴する!』 シェリフとラードリーもそのあとに続いた。 『狙った獲物は必ずこの手に頂戴する!』 『よし、んじゃメシにするぞ』 ラングロード一味の日課は、見た目は一般人の生活とほぼ変わりはない。 各々が朝から各々が仕事に精を出し、夜にはこうして全員揃って怪盗の掟を立て、飯を食べて、そして寝る。 いたって怪盗という言葉からは想像もつかないような日課である。 まず、ジンクは冒頭でも話したとおり、工事現場の作業員である。 親方からもかなりの信頼を得ていて、見た目には職人の鏡であると言っても良い。 どうやらジンクには、人を惹きつける何かがあるらしい。 おそらくリーダーとしての器もどこか天性として持ち合わせてるのであろう。 担当は、主に作戦の計画、実行、まとめなどを行う、まさにリーダーとしてもってこいの人物である。 次に、シェリフなのだが、なんと鍵屋を経営している。 普段は主に紛失した鍵の再生、開かなくなった鍵の開錠、防犯の為の鍵の提供、などあらゆる鍵に関しての エキスパートなのである。 かつては政府の豪邸に依頼されて特注の鍵を自分で作ってしまうほどの才能を持っている。 もちろんこいつの担当は鍵である、そして、ジンクのサポート役もシェリフの仕事である。 最後に、ラードリー。 見た目も中身も出来の悪いこいつの仕事は、食堂で皿洗いのバイトを行っている。 過去に色々な仕事に就いたのだが、ことごとく失敗しては追い出され、結果的に今の仕事に 就いているのである。 主な担当はシェリフ同様ジンクのサポートだが、あまり役には立っていないのが現状である。 《シェリフの章》 この3人が怪盗として一堂に会したのには特別な理由、が別にあるわけでもない。 元々この怪盗団を結成しようと考えたのは、なんとジンクである。 ジンクは生まれた頃から真面目一筋で生きてきたが、ある日の事、家に強盗が侵入し、これまで 貯めに貯めた財産を全て失ってしまったのである。 それからの彼はまるで人が変わったように性格が豹変した。 それまで口にしなかった酒に手を出すようになり、ゴロツキとの喧嘩も絶えないようになった。 そんな時のとある日の晩、いつものように酒に酔ったまま家路に着こうとしていたその時、彼は 人生を左右するとんでもない物を目撃したのである。 それは、とある豪邸の目の前だった。 豪邸の屋根の上から、お宝を小脇に抱えて華麗に去る怪盗の姿だったのである。 普通なら慌てて警察に通報しに行くのがもっぱらであるが、彼の場合は違っていた。 電話を探しにいくはおろか、その怪盗の姿にしばし目を奪われていたのである。 この現場を目撃した次の日、彼はこれまでの堕落した生活から、再び昔の真面目なジンクに 戻っていったのである。 真面目、と言うのはあくまで周りの人達の見解であって、本人の考えはまるで違っていた。 『俺も怪盗になる!!』 これがその時ジンクが考えていた本心であった。 だが、これまで真面目一筋で生きてきたジンクにとって怪盗などと言うものは単なる泥棒の一種としか 認識していなかった。 むろん怪盗になるためにはそれなりの知識を集める必要がある。 そこでまず考えたのが、書物より怪盗の知識を得ることであった。 働いたお金で怪盗についての書物を手当たり次第買い漁り、とにかく読破していった。 そして、書物を読んでいくうちにお宝を奪うための道具が必要になると考えた。 すると今度はお金がその道具のために使われた。 道具を揃える上で1番大切なものといえばやはり鍵開けの道具である。 ジンクは気がつくと鍵屋の前に立っていた。 『鍵を知るのにはやはり鍵屋しかねぇよな…』 普通ただの客が鍵について聞いたとしても大したことを教えてくれるはずもない。 が、他に手が思いつかなかったのである。 ジンクは、思い切って扉の中に入っていった。 なんとそこは、あのシェリフの店だったのである。 『…いらっしゃい、どんなご用件で?』 シェリフは無表情でジンクに問い掛けた。 『………』 が、ジンクは何も言えずただ店内を眺めるでしかなかった。 『…何か用があって来たんじゃないのかい?』 『………』 やはりストレートに「鍵開けの道具を見せてくれ」とはさすがに言えなかった。 『…ふぅ、何か深いわけがあるようだな、わかった、あんたの気が向いたら言ってくれ』 『……ああ』 そして閉店間際になる頃、 『…さて、そろそろ閉店の時間なんだが、まだそこにいるかい?』 かれこれこうして4時間はたっている。 『……すまねぇ、邪魔したな、またくるぜ』 ジンクが扉に手をかけ、外に出ようとしたその時、 『…ちょいと待ちな、兄さん』 シェリフはジンクを呼び止めた。 『…中に入って話さないかい?』 突然のシェリフの言葉にジンクは少々びっくりしたが、やがて、 『……わかった』 シェリフはジンクを中に招き入れ、店のシャッターが閉じられた。 『…で、4時間以上も何を悩んでいた?』 『はぁ、ここまで来て話さねぇわけにはいかねぇよな…』 ジンクはこれまでの経緯を事細かに説明した、勿論、怪盗の件はあえて伏せて… 『……と、言うわけなんだよ』 『…なるほど、そんなことか、ということは兄さん、強盗でもやるつもりかい?』 『な、何でそう思うんだ?』 『…ん、ちょっとした勘さ、大したことじゃない』 (この男、うまく誤魔化して言ったつもりなんだが、なかなかの切れ者だな…) 『いや、でも強盗なら鍵のことくらいでこんなに悩んだりはしないだろうな、 ということはもっと別の何か…』 『…確か2年くらい前に来たあいつも似たようなことを言ってたな、確か怪盗になるとか、 今頃どうしているやら…』 『怪盗だって!?』 『…ん、どうかしたかい?』 (しまった、つい…) 『…なるほどね、あんたもそういうわけか』 (ここまで来たらもう伏せる必要もねぇか…) 『仕方ねぇ、本当のことを言ってやるよ』 ジンクは仕方なくシェリフに全てを話した。 『…そんなわけさ、ま、あとはここから追い出すなり警察に言うなり あんたの好きにしな』 『…くっくっくっく…』 『……?』 『あーっはっはっはっはっはっは』 (何だ、一体何がおかしいって言うんだ?) 『…もう少しくわしい話を聞きたいねぇ、兄さん』 『…どういうつもりだ、あんた?』 『…ん、似てるなぁ、と思いましてね』 『似てる……??』 『…兄さんのその考え方が、2年くらい前にここを訪ねて来た奴にそっくりなんだよねぇ』 『俺みたいな奴が前にもいたって言うのか?』 『…バート、って名前、聞いたことないかい?』 『バート…ああ…』 ジンクはその名前に確かに聞き覚えがあった。 バート…ここ最近現れた巷を騒がす怪盗であった。 その盗み方は大胆かつ華麗で、A級ブラックリストに僅か2ヶ月という驚異のスピードで載った 俗に怪盗のエキスパートである。 (俺だってこれまでさまざまな書物を読んできたんだ、知らねぇわけがねぇ…) 『で、そのバートがどうかしたのか?』 『…奴がな、2年前に兄さんとまったく同じ台詞をここで言ったのさ』 『?、何だって…』 (なんてこった、あの有名なバートもここに来ていたとは…) 『その話、くわしく聞かせてくれ、えっと…』 『…シェリフだ』 『ああ、じゃあシェリフ、頼む』 シェリフの話はジンクにとってまさに好奇心の塊に他ならなかった。 バートが怪盗になろうとしたその経緯、これからのこと、その話一つ一つがジンクをわくわくさせた。 自然にジンクの顔も期待で笑っていたのである。 (そうか、そういうことだったのか…) 『…何かおかしいかい?』 『まあな、これほど楽しいことは今までなかったからなぁ』 『…で、どうするんだい、兄さんも本気でやるつもりかい?』 『ああ、やってやるさ、あの時見たのもひょっとしたらバートかもしれないんでね』 『……なるほど、見たのか…』 『ま、たった1度だけだがね』 『…という事はあの時のあれがあの兄さんね…』 『ふっ、そっちもお見通しだったってわけか』 『…勘ですがね…』 『ふっ…はっはっはっはっはっはっはっは』 (ん、ちょっと待てよ…) 『さっき俺の事を見たような口ぶりだったな、もしかしてあんたも…』 『…あの時一回きりのお手伝いってやつさ』 『なあ、良かったら俺と一緒に仕事をしてみないか?、報酬は出来る限りで払う』 『………』 シェリフはしばらく考え込んだ、そして一言、 『…報酬は兄さんが俺を楽しませる事、それでどうだい?』 『よし、決まりだ、これからよろしく頼むぜ、同士』 ジンクとシェリフはこうしてここに2人ラングロードの名を掲げたのである。 《FIRST MISSIONの章》 ジンクとシェリフが手を組んでから1ヶ月、遂にラングロードとしての初ミッションを行う時が来た。 舞台は、様々な古い書物が眠る王立図書館である。 そこにはなんと、自由の女神の左手に抱えられている辞典のモデルとなったものが保管されていると 言われている。 歴史的な価値からすれば数千万はいくであろうまさに古代の遺産である。 これがなぜか政府の管轄下にあらず、図書館で、しかもどうどうと室内の中央にある宝箱に納めて 展示してあるのも不思議であるが、価値のあるものならみすみす見逃したりはできない。 もちろん、この話を先に持ち出したのはジンクであった。 『よ、いい話を持ってきてやったぜ』 『…ほお、遂に始動か、で、何を頂くんですかな、リーダー?』 『これさ』 と言ってジンクが取り出したのは1冊の教科書であった。 『これは、考古学の…』 『とある大学で使われてる教科書さ、だがこの中身にちょっと面白い事が書かれててね…』 『…ふむ、どれ…』 シェリフはパラパラとページをめくった。 『そこの折り目のついてるページさ』 46ページ、と書かれた折り目のついてるページをめくって見る。 そこには、自由の女神が左手に持つ書物、【平和の書】についての事が書かれてあった。 『ちなみに実はこれ、初版のミスプリントなんだとさ』 『…初版って、じゃあ現在の教科書には…』 『削除されてるんだってよ、そこのとこだけすっぱりとな』 『政府からのお達しだそうだ、【平和の書】に関する記述を削除しろ、とな』 『しかしこんな意外なとこにお宝の話が眠ってるとはな…』 『ミッション開始時刻は今夜の10時、集合場所は図書館東門入口前だ』 『…オーケィ』 それから細かい作戦等の打ち合わせが綿密に行われた。 そして決行時刻直前…… ジンクは集合時刻10分前に着いた、どうやら昔の几帳面な性格が抜け切ってないらしい。 しかし、シェリフはジンクよりも先に到着していた。 『早いな、何時から来てた?』 『…30分前』 (ミッションは10時だぞ、なぜそんなに早い、もしかして俺と同じ几帳面か?) 『…ただの下見だ、別に几帳面でも何でもないさ』 『まさかお前、俺の心を…?』 『…そんな事はないさ、偶然だ』 『ま、いいか、始めるぜ、ミッションの制限時間は25分だ、それ以上は警戒態勢が厳しくなる』 『…了解』 『んじゃ、いくぜ!』 2人は素早く館内への侵入を図った、セキュリティを破るのはジンク、鍵を破るのはもちろんシェリフの 役目である。 『さて…』 ジンクはさっそく赤外線スコープを装着し、館内の様子を見る。 『えと、ここがこうでこっちがああなって…、なるほど』 ジンクは背負っていたバックを床に下ろし、ごそごそと中を漁りだした、そして、数枚の鏡を取り出した。 『…まさかたったそれだけの鏡で全ての赤外線を避けることができるのか?』 『まあ、見てなって』 『えっと、ここと、そこと、あとはここ、っと…、さ、もういいぜ』 赤外線対策に用いた鏡はたったの4枚、これで本当に大丈夫か、と思いつつ、シェリフは金庫に向かって 一直線に歩き出した。 『…反応しない…?』 『たく、信用ないねぇ…』 『…不思議だ、どうなってるのかさっぱり検討がつかない…』 『ま、これも学習の賜物ってわけさ、んじゃ、あとは任せるぜ』 『…ん、わかった』 シェリフは2本の針金を取り出し、それを鍵穴に差し込み、カチャカチャといじり始めた。 針金は全部で11本あり、それぞれが奇妙な形に曲がっていて、大抵の鍵はそれを使い分ける事によって 開いてしまうらしい。 シェリフがもっとも大事にしている道具の一つである。 1つの鍵に要する時間は平均で約20秒、まさにギネスもビックリのタイムである。 だが…、 5分経過… 『…おかしい……』 『どうかしたのか?』 『…鍵が開いてるはずなのに、箱が開かない……』 『なんだって??』 シェリフの話によると、鍵は確かに開いているのだが、中のフックが2枚あったらしく、開けたのは その内の1枚だけらしい。 『ちょっと待て、確か宝箱の鍵穴は…』 『…1つだ……』 『じゃあ、他に鍵穴は…』 『…ない』 『…堂々と保管されてる、鍵穴がある、鍵は存在するはず、その鍵で開く、となると開ける方法は 必ずあるはず…』 シェリフはしばらく考え込んでいた。 15分経過… 『鍵が開かないんじゃ仕方ねぇ、引き上げるか?』 『…いや、もう少し待ってくれ』 『このままだと2人とも捕まっちまうぞ、それでもいいのか?』 『…ふふふふ…』 『ど、どうしたって言うんだ、急に笑い出したりなんかして…』 『…兄さん、あんた、こう言ってたよな、できる限りの報酬は払うって』 『ああ、確かに言ったが、捕まっちまったら報酬も何も払えなくなるぜ』 『…その時、言ったよな、報酬は俺を楽しませる事って…』 『……まさか…??』 『…ああ、今物凄く楽しいんだ、俺にも開けられない鍵がこの世にあったなんてな』 『……負けたよ、あんたの好きにしな』 『…恩にきるぜ、「リーダー」』 『まったくだ、はは…』 さらに5分が経過… シェリフはまだ考え込んでいた。 『やっぱり鍵穴が1つしかねぇなら、開ける鍵穴もやっぱりそこなんじゃねぇか?』 『…やはりそう思うか、俺も実はそう考えていた』 『なあ、普通の鍵って片方に回すと鍵が開いて、もう片方に回すと鍵が閉まるんだよな?』 『…まあ、そうだが…』 『……って、ん、まさか!!』 『シェリフ、どうかしたか?』 『…ちょっと貸してくれ』 カチャカチャカチャ…、カチッ! カチャカチャカチャ…、カチッ! 『…開いたぞ…』 先ほどまで1つのフックしか開けられなかった宝箱は、今回はものの簡単に2つともフックが開いたのである。 『おお、やったじゃんか、一体どうやったんだ?』 『…さっきの言葉がヒントになった』 『さっきの言葉…??』 『…普通の鍵なら片方に回せば鍵は開いて、もう片方に回すと鍵は閉まる、そうだったよな?』 『ああ、確かにそうだが…』 『…ちょっと見てくれ』 そう言ってシェリフはまた宝箱の鍵を閉めた。 『…まずは、片方をここから半周させて開ける、っと』 カチャカチャカチャ…、カチッ! 『…で、次は元の位置から逆に半周回して…』 『おいおい、普通逆に回したら鍵はしま…』 カチャカチャカチャ…、カチッ! 『って、……え??』 何と、逆に回したはずの鍵は閉まることなくもう一つのフックを外したのである。 『しかし逆に回しても鍵が開くとはな…、恐れ入ったぜ』 『俺もこういった類のは初めてだ、おそらくは極秘で作らせた特注品だろう』 『さて、余韻に浸ってる場合じゃねぇな、さっさと中身を頂いて帰ろうぜ』 『…そうだな』 ジンクは宝箱を開けた。 中には1冊の分厚い本があった、その表紙には… 【平和の書】 そう書かれてあった。 『よし、あとはこいつを頂いて帰るだけだな、あとは中身の確認だけ…』 ジンクはページをパラパラとめくった。 『ん、なんだこれは…?』 『…どうかしたのか?』 シェリフもページをめくって見る。 なんとそれは、1つのページ以外ほとんどのページが白紙になっている平和の書であった。 唯一記述されているページは目次の部分であった。 『中身はいったいどこに行ったんだ??』 『…やはり本物は政府の管轄にあるんじゃあ?』 『もしそうだとしたら無駄足だったな』 『…まあ仕方が無いな』 『ち、もうそろそろ25分か、集団で警備が来やがる、引き上げるぞ』 『…そうだな』 2人は足早に去っていった。 さて、本当に平和の書は政府の管轄で別に保管されているのか? 図書館にあった平和の書は果たして本物か偽物か? 目次だけの平和の書には一体どんな意味が隠されていたのか? さて、その正解を今からお教えしましょう。 実は、あれは紛れも無い本物だったのです。 と言っても、本物の部分は本の表表紙に裏表紙、そして目次のあのページが本物でした。 では、残りの部分はどこへ行ったのでしょう? それは図書館の中に堂々と置かれていました。 しかも、図書館という環境を利用し、沢山の本の中にそれぞれ1ページずつ隠していたのです。 よく、木の葉を隠すなら林の中と言いますが、まさに、紙切れを隠すなら本の中、というやつです。 図書館には様々な本があります、その数も数千、大きい所だと万単位はあるでしょう。 そこからたった数百枚の紙切れを1冊ずついちいち調べるにはかなりの手間です。 それを25分でやってのけるのはさすがに不可能でしょうし、今回は怪盗さん達も 気付かなかったようですしね。 ちなみにミッションより2日後の新聞より… [王立図書館に怪盗現る] 『お、さっそく載ってんな、どれどれ…』 ジンクはゆっくりと新聞に目を通した、すると次の文章に… [王立図書館の機転により平和の書守る] そこには平和の書が確かに存在していたこと、平和の書の隠した方法、政府の管理下に置かれてしまったこと などが事細かく、まるで俺達をあざ笑うかのように書かれていた。 『……そうくるかよ、まったく…』 もはやジンクは笑うしかなかったのである。 《ラードリーの章》 『よ〜し、全員ちょっと集合してくれ!』 工事現場で、親方からの突然の呼び出しであった。 『今日からここで働く事になった新人だ、おい、簡単でいいから自己紹介してくれ』 見た目は中肉中背でどこか頼りないような感じ、と言うのが第一印象だった。 『え、と…俺、ラードリーて言いやす、みなさん、よろしくっす』 (訂正、感じじゃなくて、そのままだな…) 『ん〜じゃあ自己紹介も済んだところで…、おい、ジンク!』 『うい、何すか?』 『すまねぇがこいつに基礎をみっちり叩き込んでやってくれねぇか?』 『はぁ、いいすけど…』 『じゃ、しっかり頼んだぜ!』 この時点ではまさかこいつと一緒に怪盗をやるとは思っても見なかったのだが… 『えっと、じゃあ、兄貴、よろしく頼むっす』 『兄貴だぁ?、普通にジンクで構わねぇよ』 『いえ、ここではみんなが先輩っす、先輩といえばやっぱり兄貴っす』 (やっぱりこいつ、変な奴だな…) 『はぁ、わかったわかった、好きにしてくれ…』 『じゃあ、改めてよろしくっす』 とりあえず簡単なところから教えては見たものの、ラードリーは飲み込みが悪いと言うか天性のものなのか 解らないが、とにかくドジばっかり踏むのである。 体がそこそこ大きい割には力はそれほどなく、用事を頼むと数分で忘れてしまう。 見るに見かねた親分が、 『おい、ジンク、もういいぞ。』 『ん、何がですかい?』 『そいつはたった今クビだ、お前も自分の持ち場に戻ってくれ』 『え…、へ、へぇ…わかりやした…』 ラードリーはガックリした様子でとぼとぼと帰っていった。 少々ラードリーのことが気になったが、とりあえず今は仕事に戻ることにした。 『よし、今日も1日ご苦労だったな、終了だ!』 親分の掛声とともに今日の仕事は終了した。 『さて、帰るか』 帰り支度を済ませ、入り口の門を通り過ぎた時、なんとあのラードリーが入り口の壁に もたれかかって座っていた。 『どうした、え、こんな所でしょぼくれて』 『あ、あにきぃ…』 ラードリーは今にも泣きそうだった。 『はぁ、何だか見捨てて置けねぇな、おい、ついて来な』 『へ、へぇ…』 ジンクはラードリーをシェリフのいる鍵屋に連れて行った。 『邪魔するぜ』 『…お、兄さん、今日は何か御用で?』 『いや、今日はちょっとした相談事だ、中いいか?』 『…で、そいつは仕事の仲間か何かか?』 『仲間だった…、だな、今日ウチに入っていきなりクビになった奴でな』 『…そうか、まあ話だけでも聞くとしようか』 シェリフは2人を中に招き入れた。 『で、相談ってのは何だい?』 『ほれ、俺は大体見当ついてるが、言ってみな』 『へ、へぇ…』 ラードリーはこれまでの自分の生き様について話した。 『…で、今の自分の生き方を変えたい、ってわけか…』 『どうだ、シェリフ、お前の頭脳で何とかなんねぇかな?』 『…無理だな。』 『そんな、お前の事だから案の1つや2つはあるんだろ?』 『…無い事もないが、これはコイツ自身の生き方だ、人がとやかく言って変えるもんでもない、 人の生き様とはそういうもんだ』 『ち、仕方ねぇな、で、お前は何かしたいこと、っつうか夢みたいなもんがあるのか?』 『したいこと…、ですかい?』 『そうだ、色々あんだろ、大金持ちになりたいとか、こいつと結婚したいとか…』 『う〜んと…』 ラードリーは必死になって考えた。 『あ、今ならありやす』 『お、何だ、言ってみろよ』 『兄貴みたいな人の下で働きたいっす』 意外な答えだった。 どう考えてもこいつのイメージは見た目そのままどんくさいように見えるのだが、どうやら芯はしっかりしてるらしい。 『ほぉ、俺みたいな人の下でねぇ…』 『兄貴は何かたくさんの夢を持ってそうっす、しかもそれを全部叶えそうな気がするっす』 (こいつ、ほとんどがダメだが見る目だけは確かなようだな…) (もしかしたらあの時ほっといておけなかったのはこれのせいかもな…) 『1つ聞いていいか?』 『へぇ、何でしょうか?』 『さっきお前、俺みたいな人の下で働きたいと言ったな、その言葉、嘘偽りはないな?』 『へぇ、兄貴だったらどこまででもついて行ける気がしやす』 (こいつは面白くなってきそうだな…) 『というわけだ、シェリフ、どうだ?』 『…リーダーはあんただ、好きにしてくれて構わない』 『よし、んじゃあ決定だ、お前は今日からこのラングロードの仲間だ』 『ラング、ロード…??』 『俺たちは普段はまっとうに働いてるんだが…、ま、ちょっとこいつを見てみな』 ジンクは3日前の新聞をラードリーに手渡した。 『そこの2面の記事だ』 ラードリーは言われた通りに記事に目を通す。 [王立図書館に怪盗現る] 『これって確か…』 『それをやったのが、俺たち2人だって言ったら、お前はどうする?』 『………』 『どうした、びびっちまったかい?』 『い、いや、素晴らしいっす、兄貴はやっぱり凄いっす』 『ま、ミッションは失敗だったがね』 『いや、やっぱり兄貴は俺が見込んだ通りの人っす、俺からも是非よろしく頼むっす』 『んじゃあ、とりあえず新しいお仲間ができたところで、次のミッションでも考えるとするか』 『了解っす』 『・・・頼むぜ、リーダー』 ここに3人が揃うことになったのである。 |